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広島地方裁判所 昭和42年(わ)515号・昭42年(わ)485号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(罪となるべき事実)

被告人両名は、昭和四二年八月六日夜、広島市十日市町のダンスホール「メトロ」において、同所に来合わせ遊んでいた大山裕子(当二三年)および神保千里(当二三年)の両女と知り合つたが、同日午後九時過頃、同女らが右「メトロ」を出て、とうろう流しに行こうとしているのを知り、被告人山崎敏政において同女らに対し「よかつたら一緒に乗りませんか」などと言葉巧みに誘つて、右「メトロ」前でタクシーに乗車させ、被告人松原敏夫もこれに同乗して同所を出発したのち、被告人山崎においてさらに「府中の方に用事が出来て行かなければならないからつきあつてくれないか」などと甘言を用いて同女らに同行を承諾させ、安芸郡府中町埃宮に至つて一旦下車したが、被告人山崎は前記大山裕子を強いて姦淫しようと考えるにいたり、友達が水分峡に行つている旨虚言を弄し、同行をしぶる同女らを再びタクシーに乗車させ、一方被告人山崎が同女らを姦淫しようとしているのではないかと感づいていた被告人松原もこれに同乗し、同日午後一〇時頃同町水分峡広場入口付近に至り下車したが、ここに被告人山崎は前記大山裕子を被告人松原は神保千里を強いて姦淫しようとそれぞれ決意し、

第一 被告人山崎は、前記大山裕子を右水分峡水分神社付近の堤防上に連行し、同女の頸部に腕を巻きつけて同女を右堤防上に押し倒して抑えつけるなどの暴行を加え、「大きな声を出すと締めるぞ、やらせい」などと申し向けて脅迫し強いて同女を姦淫しようとしたが、同女に激しく抵抗されたため、その目的を遂げず、

第二 被告人松原は、前記神保千里を前記水分峡広場付近の小屋内に腕を掴んで連行したうえ、同女の頸部を両手で締めつけるなどの暴行を加え「声を出すと殺すぞ、ここまで来たら観念せい」などと申し向けて脅迫し強いて同女を姦淫しようとしたが、同女に激しく抵抗されたため、その目的を遂げなかつた

ものである。

(無罪部分の理由)

一、本件公訴事実の要旨(便宜上判示有罪部分をも含めて記載する)は、

「被告人両名は、共謀のうえ、昭和四二年八月六日午後一〇時頃、広島県安芸郡府中町水分峡水分神社付近において、大山裕子(当二三年)および神保千里(当二三年)の両名を強いて姦淫しようと企て、被告人山崎敏政において、右神社付近の堤防上へ前記大山裕子を連行し、同女の頸部に腕を巻きつけて同女を右堤防上に押し倒し抑えつけるなどの暴行を加え、「大声をたてると締めるぞ、やらせい」などと申し向けて脅迫し、被告人松原敏夫において前記神保千里の腕を掴んで水分峡広場入口付近の小屋内に連行し、同女の頸部を手で締めつけるなどの暴行を加え「声を出すと殺すぞ、ここまで来たら観念せい」などと申し向けて脅迫し、強いて同女らを姦淫しようとしたが、同女らが激しく抵抗したためその目的を遂げなかつたものである」

というにあつて、検察官は被告人両名につき、いずれも大山裕子、神保千里の両女に対する各強姦未遂罪の共謀共同正犯として訴追するものである旨主張する。

しかし、当裁判所は、前判示の如く、被告人山崎については大山裕子に対する被告人松原については神保千里に対する強姦未遂罪(単独犯)は、それぞれ成立するが、当該被告人において実行々為に出なかつた婦女に対する関係、即ち被告人山崎については神保千里、被告人松原については大山裕子に対してはいずれも次の理由により強姦未遂罪は成立しないものと解する。

二、まず前掲証拠によれば、判示の如く、被告人山崎は府中町埃宮付近から大山裕子を強いて姦淫しようと考え、被告人松原は被告人山崎が同女らを姦淫しようとしているのではないかと感じ、同人が姦淫する場合には自分も姦淫しようと内心考えながら、水分峡広場入口付近に到来したところ、同所で被告人山崎は直ちにタクシーを帰らせたうえ、被告人松原に対し右大山を指さし、「わしはこつちをものにするから、お前はあれをやれや」とささいた。そこで被告人松原においても神保を強いて姦淫しようと決意し、被告人両名は互いに相被告人が強姦行為におよぶであろうことを認識しながら、それぞれ判示犯行におよんだ事実がみとめられる。

三、しかしながら、前掲証拠によつても、被告人両名が水分峡広場に到着前に同女らを強姦しようとの意思連絡を行なつたとの事実はみとめられず、したがつて、また同所に赴くまでの間に強姦罪の実行の着手たる暴行、脅迫を被告人らが行つたとの事実もみとめられない。

被告人両名は水分峡到着後、意思を通じたうえ、判示の如くそれぞれ実行々為には出ているが、強姦罪は被害者毎に成立するものであり、前記大山、神保の両女に対する各犯行は別個の犯罪であると考えられるに加え、司法警察員作成の実況見分調書ならびに被告人らの前記各供述調書によつても各犯行現場はかなり離れていることが明らかであつて、被告人両名が暴行、脅迫を共同して行ない、あるいは相被告人の暴行、脅迫を互いに利用した事実はみとめられない。

それ故、被告人両名は、いずれも相被告人の犯行には互に何ら加功しておらないのであるから、いわゆる実行共同正犯が成立しないことは明らかであるといわなければならない。

四、そこで、共謀共同正犯の成否についてさらに考察するに、いわゆる共謀共同正犯が成立するためには、二人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつて、互いに他人の行為を利用して各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、この謀議にもとづき、共謀者のある者が実行したとの事実が存しなければならないと解される(昭和三三年五月二八日最高裁大法廷判決参照)。

したがつて、共謀共同正犯における共謀は、二人以上の者が各自現実に実行々為の全部または一部を行ういわゆる実行共同正犯の場合の主観的成立要件たる、二人以上の者における「意思の連絡」ないし「共同犯行の認識」のみでは十分でない点において、これと異なるものがあるといわなければならない。

五、これを本件についてみるに、前記の如く被告人らは水分峡に到着直後、被告人山崎の前記の言葉を契機に、それぞれ相被告人と意思を通じ、各自実行々為におよんだが、その際両被告人とも自己が強姦に、着手した婦女のみを姦淫しようと考えたにすぎず他の婦女をも姦淫しようとの意思は全く有していなかつたことが明らかである。

いうまでもなく、強姦罪においても自己が姦淫する意思を有していなくとも、他の者と共謀し、その者をして実行々為をなさしめることにより共謀共同正犯の成立する場合はあるけれども共謀共同正犯における共謀の内容を前記の如く解する以上、強姦罪の性質からして実行々為に出ない者について実行々為者の行為により自己の犯罪を行う意思即ち正犯意思を有したというためには、当該婦女を姦淫することに関して例えば該婦女に対する自己の憎しみの感情等の利害関係そのほか他の者の行為を自己の意思の実現として利用したとみるに足りる何らかの事情がなければならないと解される。

しかし、叙上の事実関係からみて、被告人両名はいずれも相被告人の行為についてまでも、自己の犯罪として行わしめる意思を有していたとみとめるに足りる事情はうかがわれない。

六、以上によれば、被告人両名は当時、互いに相被告人の犯行を認識して各自の犯行におよんだとしても、いわゆる共謀共同正犯における共謀があつたものとは考えられない。

また被告人山崎の同松原に対する前記「わしはこつちをものにするから、お前はあれをやれや」との文言もいまだそれのみでは、被告人山崎が同松原に対し、神保についての強姦の教唆あるいは幇助をしたとみる証拠となすには十分でないといわなければならない。(西俣信比古 笹本忠男 木村要)

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